BROGLD MASTER 伊勢屋の非大人的アレコレ

おそらく、読んだ人の役には立たない内容ばかりです。

どのくらいの価値?

『奈良の鹿』なんて話してたら、思い出したことがある。


学生の頃、奈良にいたことがある。

いろいろなバイトしたけど、その中の一つに、



交通警備員



があった。



工事現場で赤と白の旗振って、車を止めたり通したりするのが主な仕事。


当時愛してたアイボリーの原付スクータ



パッソルデラックス

(デラックスってのがミソ…)



に乗ってあっちこっちの現場へ移動。




夏の暑い日は汗がすっごくて靴の中まで汗でぐっしょりしてた。


だって、暑いさなか、ヘルメット被ってたし…。


埃っぽい工事現場の側、
炎天下のアスファルトの上、
車の排気ガスだらけの空間。

今思えば、ずいぶん悪い環境だったな〜。



しかし、交通整理だけではなく、時には


休日の工場の留守番なんかもした。


ちょっと、怖かったときもあった。

でも、大きな工場の主になったみたいで、ちょっとおもしろかったな。

工場長の椅子に座ったりもした。





さてさて…。

ある時期から、奈良公園から少し北に上った所、

旧街道沿いのホテルの建て替え現場で

ダンプの出し入れを担当することになった。


歩行者や車の往来を確認して、ダンプがバックする時に笛を吹いて誘導するのが主な仕事。


ところで…


場所が場所だけに、工事で土地を掘り起こすといろんなものが出てくる。


なんせ、東大寺からも遠くない!




その辺りの工事をする場合、奈良市に申請をすると職員が事前に調査をするらしい。

文化財が眠っていることもあるからね。



で、


その現場も…



「1200年前の埋蔵物が出てくることもある。」


ということらしかった。


出てくるものによっては、工事を中断しその事実を奈良市に報告する義務があるそうだ。


でも実際は、工事業者や土地の所有者は、何かが出てきても報告せずに工事を進めてしまうことが多いらしい。


工事が止まると、お金が入らないから…。


気持ちはわかるけど…。


なんだかね〜。




そして、実際。

土器や加工された木材なんかが出てきた。

そして、それらの中で状態のいいものは工事現場のオッサンが持って帰ってた。

役得である。

ちょっと「ずるいな〜。」

と思ってた。



また、別のものといえば、

一辺が30cmくらいだったかな?

ほぼ正方形で厚さも10cmくらいの


大きく、重い



が何枚か掘り出された。



私が興味深くそれを見ていると…。


少し角が割れているものではあるが、貰えることになった。



私はそれを持ち帰ると、

アパートで水洗いし、たわしで磨いた。


細かな模様もあった。


藁の跡のような筋もあった。




当時、とにかくお金が欲しかった私は何の躊躇も無く

近所にあった骨董屋を尋ねた。

19か20歳の時のことである。



私は瓦を差し出し、入手した顛末を店主に話すと…

店主は瓦をじっくりルーペで観察し…



本当の話のようやな…。


とつぶやく。

私の話が嘘ではないと信じたようだ。



その次から聞かされる話の内容が驚くものであった。

田舎町の、しかもボロイ骨董屋だったが、

対応した年配の店主は驚くほどの知識を持っていた。




これは東大寺の瓦や。
それも、最初の頃のやな。
あの辺りは土の中に雲母が多くて…ほらここの部分、光ってるやろ!
○○年の時の瓦は□□で焼かれたから、粘土の質が違う。
そやからこれは最初の頃のものやな。


とか、


この模様は、建造されてから…のときに焼かれたから、ここが…になってるんや。
(ちょっとはっきり記憶が無いので…))


なんて話し出した。



私は、慣れない場所で、要領がわからないだらけの状況だったので、

ただ、ひたすら店主の話を聞き、唖然とし・感心した。



そして、店主は…


「で、いくらで売るつもりや?」

といきなり切り出した。


ところが、私は何の知識も相場もわからない。

高すぎるとバカ丸出し、低すぎると損だし、何も言い出すことはできなかった。

なので、ここは直球勝負と思い。

素直に、


「まったく素人なんでわかりません。後で文句言わないからそちらで決めてください。」

というと、店主はちょっと困った顔で、


「こういうのは値段なんかないのやで。あんたがいくらで売るか決めて、こっちが呑むかどうかなんや。」


と返される。

尤もだと思うが、相場がまったく予想もできなかったので、やっぱりその店主に決めてもらえるように申し出ると…。

「ほんなら、15000円でどうや?」


と言われる。

私は、即OK!

正直なところ、そんな値がつくとは思ってなかった。

3〜4千円くらいかなって思ってた。


満足げな顔をしている私に、お金を手渡した店主は、私に一言…。


素人があんまりこういうことに手を出さん方がええよ…。
もうこれきりにしときや…。


今思い出しても、特殊な経験だと思う。

あんな田舎のボロい骨董屋の年配の店主が、



やけにカッコ良く見えた…。



でも、実際…あの瓦…





どのくらいの価値があったんだろう…。





思い出す度、死ぬまで気になるかもしれない…。