ぬぐおぁぁぁぁっくっ!!!!
昨日、姫路に行く用があった。
ガソリンが往復分は無かったので、名神高速道の京都南インター近くにあるガソリンスタンドで給油をした。
最近京都でも増えてきた『セルフ』のガソリンスタンドだった。
私は普段でも『セルフ』で給油している。
私の知る限りでは、この『セルフ』には大きく2つのタイプがある。
給油をした後、伝票をスタッフのいる場所に持って行き清算する後払いタイプ。
身近なところでは白川通りと丸太町通りの交差点、天王町辺りにあるスタンドがそうだ。
もう一つは先にお金を機械に入れ、給油してからつり銭を受け取る先払いタイプ。
川端通り沿い北山通りと北大路通りの間にあるスタンドがそれだ。
今回のタイプは後者、先払いであった。
残りのガソリンは『スッカラカン』ではなかったので、
「ん〜っ、3千円くらいかな!?」
と思い千円札3枚を機械に挿入する。
『レギュラー』を選択、『静電気除去ボタン』に手を触れてから『給油ノズル』を愛車の給油口へ挿入しトリガーを引く。
実に手馴れた作業である。
セルフ給油をする一般人としては、『相当な使い手』と噂されても遜色ないだろう。
システムをよく理解していない、要領の悪い夫にイライラしている御婦人が私を見たら、きっと『ハートに火が点く』であろう。
幸いそのような御婦人は周りになく、新たな罪を作らずに済んだ。
ところがである...。
昨日は春の嵐と言うような、そんな生易しいレベルを遥かに超す程の強風の日であった。
「あぁ、そうかここは先払いタイプだな...フッ...。」
と流れるような体捌(たいさばき)きで財布から紙幣を取り出したまでは完璧であったが、そこへ突風が
『ドヒュヒューンッ』
まさに紙幣挿入口に手を近づけていたところであった千円札が
『バタバタバタバタッ』
っと踊り狂う。
もはや主人である私の気持ちを裏切るかのごとく波打っている。
まるで教育熱心な親の気持ちを理解しないで、芸術的な要素などまったく感じられない変なダンスを練習しまくる娘のようである。
しかし、そこで慌ててはダメだ。
『相当な使い手』を自負する私としては、そのくらいのことで動じている素振りを第三者に気付かれることすら許されない。
私は涼やかな顔で急な突風にも冷静に対処した。
千円札を縦にし、中央裏に親指を押し当て表は残り4本の指で緩やかなカーブを描くように持つ。
そうすると千円札は骨を持ったようにしっかりとした状態を維持できるのである。
当たり前だが、私は何事も無かったかのように千円札を機械に挿入する。
千円札は機械音と共にその姿を消していく。
突風ごときには私の日常の何事をも変えることはできないのである。
そして次の千円札を出そうと財布に手を伸ばしたその瞬間だった。
『じぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ...』
という音と共に千円札が機械から戻ってくるではないか!!!!
左手には財布、右手には次の千円札を持ったところだ。
戻ってくる千円札をスマートに受け取る余裕が無い!!!!
その上、相変わらずの突風が私にプレッシャーをかける。
放っておけば確実に千円札は天高く舞い上がってしまうだろう。
『迂闊(うかつ)』だった。
まだ、折り目も無いような新しい千円札だったため、よもや返却の仕打ちを受けるとは予想できなかった。
機械を完璧に信頼するのは、己への甘えがあるが故のこと...。
『相当な使い手』にはあってはならない失態である...。
しかし、何とか事なきを得た私は、気を引き締め直して終には3千円すべてを機械に飲み込ませた。
後は給油をするだけである。
この作業は突風に邪魔されることはまずあり得ない。
既に私を脅かす物は何も無くなったわけである。
ところで、給油をすると、機械の液晶画面では給油中の量とその金額が表示される。
またガソリンが溢れてはいけないので給油装置にはセンサがあり、タンクいっぱいになると自動的に停止してくれる。当然と言えば当然だが、ありがたい機能である。
しかしセンサの性格上、『満タン』ではなく『ほぼ満タン』で給油は一時ストップする。
そしてその『一時ストップ』の時の液晶画面表示の金額は『2857縁(わざと間違えたりして)』だった。
ここで終われば、3千円の先払いに対してのつり銭は143円。
美しくない...。
タンクにはまだ少々のゆとりがある。
私は迷うことなく給油ノズルのトリガーを引き、すこしづつ給油を再開する。
そして金額が『2898円』になり、最新の注意を払い極微妙な動作でトリガーを引く。
...『2899円』...
よし、3000円ジャストは無理だったが、2900円でフィニッシュだ!」
と神経を指先に集中し、両目の焦点は液晶画面を捉えてはなさない。
マバタキも忘れていた。
そして最後の数滴程のガソリンを搾り出そうとした、まさにその瞬間!
体も、車もが揺さぶられる程の突風が襲ってきた...。
極微妙な私の指先の感覚は一瞬狂い...液晶画面の数字は...
『2901円』
になっていた...。
私の負けである...。
天は私に、更なる高みを示し、精進を進めたのであった。